書きっぱなしジャーマン

投げっぱなしジャーマンのごとく書き殴った映画鑑賞記録です。

葛城事件

あらすじ

父親から受け継いだ小さな金物屋を懸命に切り盛りし、マイホームを手に入れ、妻の伸子(南果歩)と共に長男・保(新井浩文)と次男・稔(若葉竜也)を育て上げた葛城清(三浦友和)。理想の家族と生活を築いたと考えていた彼だったが、21歳になった稔が8人を殺傷する無差別殺人事件を起こして死刑囚になってしまう。自分の育て方に間違いがあったのかと清が自問自答する中、伸子は精神的に病んでしまい、保は勤めていた広告代理店を解雇される。やがて、稔と獄中結婚したという女・星野が現れ……。

映画『葛城事件』 - シネマトゥデイ

感想

公開から 3 ヶ月ほど経っており都内ではほとんど上映している映画館はなかったのですが、どうしても見たかったので、渋谷アップリンクの最終回で見てきました。 事前によい評判は聞いていたのですが、期待どおりというか期待以上のものだったと思います。

まずオープニングが圧巻。清が「バラが咲いた」を口ずさみながら家の外壁に書かれた誹謗中傷の文字をペンキで塗りつぶすシーンからはじまって、場面が切り替わると今まさに裁判所で稔の判決が下されようとしている。裁判官が淡々と主文を述べる様子とあわせてクラシックの楽曲が流れだしてから死刑判決が言い渡されるまでの流れは、裁判シーンの冷徹な雰囲気と相まって妙な高揚感があり、「あ、この映画期待できるな」と思わずニヤリとしてしまうくらいでした。一気に物語に引きこまれていきます。

物語自体は、事件前、事件後の 2 つにわかれていて、それぞれ交互に語られながら進んでいく構成。

事件前の葛城家は既に不穏な家族関係で、元凶である父親の清の高圧的な言動を中心に、家庭崩壊までの流れが淡々とかつスリリングに描かれていきます。 中華料理屋での食事シーンは特に象徴的で、店員にまくし立てるようにクレームをつける、妊婦(保の妻)の前で煙草を吸う、マイホーム主義を息子夫婦に押し付けるなど、老害っぷりをいかんなく発揮してくれており、見ているこっちがハラハラさせられます。

稔に関してはニートのどうしようもないバカ息子ではあるものの、中盤まではどちらかというと清の傍若無人な振る舞いの被害者的な描かれ方をしており、見ている方としても殺人犯である稔側の情状を汲みとってあげたい気持ちが少なからず出てきました。 ただその後、実際に殺人を実行するところがリアルにかつ生々しいシーンになっているため、稔に同情の余地がないという点を再認識させられ、映画の作りとしても殺人犯側のみの心情が描かれるような片面的なものではないと感じました。

映画全体として一番印象に残ったのは、中盤、清に嫌気が差した伸子と稔が家を出ていって2人で暮らし始めたアパートで、保も含めて 3 人で会話するシーンです。会話の内容は「今日世界が終わるとしたら何が食べたい」という他愛もないものですが、ここがほんのひとときだけ家族っぽい様相を取り戻す瞬間でした。 その後、清が部屋にやって来るのと同時に、火をかけていたやかんの沸騰音が部屋に鳴り響く不吉な演出も素晴らしかったです。

事件後パートの話の芯となるのは星野ですが、彼女がなにをしたかったのか最後までよくわからなかったのは残念でした。死刑反対の立場なのはよいのですが、それを裏付ける理由とか行動の動機の部分が不足していたように思うので、そこはもうちょっと丁寧に描いて欲しかったなと思います。

あと、スナックのママの包容力はすごいと思う。